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- 作者: 堀江敏幸
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2001/06/01
- メディア: 単行本
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瞬間の記憶、なのだと思う。この一冊は。人々の生活感覚と町の風景とをやんわり紙上に載せているように思う。
気持ちよく遊び、いちばん身体にあったリズムで精一杯の仕事をする。そういう自由を手にする権利は誰にでもある。しかし一生懸命やったから負けてもいいと試合の前に悟ってしまうのは見当ちがいだし、かといって是が非でも勝たなければと自分を追いつめるのもおこがましい。このふたつの矛盾のあいだでじっと動かずに待つときの気持ちの匙加減はとても難しいのだが、正吉さんの表現をいくらか変形するなら、普段どおりにしていることがいつのまにか向上につながるような心のありよう、ということになる。いつもと変わらないでいるってのはな、そう大儀なことじゃあないんだ、変わらないでいたことが結果としてえらく前向きだったと後からわかってくるような暮らしを送るのが難しいんでな、と正吉さんはピースの缶を手によくつうやいていた。
正吉さんは結局最初しか出てこないし、「かおり」のおかみさんのお誘いを断ってしまったがために話は宙にういて、咲ちゃんはきっと勝つのだろうが結果はわからず。でも、そんなところが深みがあっていいな、と思うのです。