クヌルプ (新潮文庫)

クヌルプ (新潮文庫)

にどともこれは永久のもので、死ぬ時はじめて終わりうるのだ、と確信していた。しかし、二度とも終わってしまい、ぼくは死ななかった。友達もひとりいた。まだ故郷の街にいたころ。ぼくたちふたりが生きている間に別れることがあろうとは考えなかった。だが、やっぱり別れてしまった、ずっと前に。
中略
結局はめいめいみな自分のものはまったく自分だけで持っていて、おh化の人たちとともにすることはできないのだ。そのことは誰かが死んだ時、よくわかる。一日の間、一か月の間、泣き悲しむ。一年に及ぶこともある。だが、死んだものは死んだので、居なくなってします。故郷もなく知り合いもない手職の徒弟がそうやって棺の中に横たわっていたって同じことだろう。
中略
なにもかもみな同じことなら、善良で正直であろうとすることには意味がなくなる。青が黄と同じように仲良く、悪が善と同じように良いなら、善というものはなくなる。そうなれば、みんな森の動物と同じようになり、本性のままにふるまい、取り柄もなければ罪もなくなる。

意思なんてものはなんの値打ちもなくて、何事もまったくわれわれに関係なく運んでゆくのだとかんじられるから、ばかばかしく悲しくなることがよくある。だが、だからやはり罪というものはあるのだ。悪くあるよりほかしようがなかったとしても。自分の心の中でそう感じているのだからね。善いことはただしいことでなければならない。善くあれば満足していられるし、両親にやましくしなくて居られるんだからね。